佐藤酒造店 佐藤麻里子さん

 彩の国と呼ばれる「埼玉県」。愛称のとおり、みなさんの「個性=Color」によって埼玉県は「彩られて」います。先人から伝わる伝統を受け継ぐ人。埼玉から新たな革新を起こす人。文化・芸能・スポーツなど様々な分野で様々な色を生み出しています。そんな埼玉県の「これまで」と「これから」を彩る方々を新たな視点で紹介する「Painters」。是非ご覧いただき、あなただけの「Color」を見つけてください。

<佐藤麻里子さんPROFILE>

佐藤麻里子(さとうまりこ)佐藤酒造店杜氏。埼玉県入間郡越生町生まれ。
大学卒業後の2015年より、176年の歴史を誇る佐藤酒造店の杜氏を務め、酒造りの最高責任者として蔵から出す酒の味を決め、蔵人を率いている。

杜氏となった当初より、新商品の開発や看板商品のパッケージ変更を積極的に行い、これまでのファンはもちろんのこと、日本酒が初めての方にとっても、女性の方にも、手に取りやすく飲みやすいお酒を届けるため、昼夜を問わず酒造りに励んでいる。

interviewer:Jessica Gerrity (ジェシカ・ゲリティ)

Jessica Gerrity (ジェシカ・ゲリティ)

Jessica Gerrity (ジェシカ・ゲリティ)マルチタレント。
ニュージーランドに生まれ、日本在住18年(現在はさいたま市在住)。
日本やニュージーランドのテレビでタレントとして活躍する一方、3児の子育てをしている。
趣味で始めた弓道は三段の腕前。その他、四半的弓道、スポーツ流鏑馬も行うほど、日本文化に精通している。

現在は、埼玉県の「Love 埼玉アンバサダー」として埼玉県の魅力を日英両言語で発信している。

「埼玉で女性として初めて杜氏になった方への取材」と聞いた瞬間「どんな思いで杜氏になったんだろう?」と純粋に思いました。日本全国を見てもまだまだ杜氏として働く女性がとっても少ない中で、杜氏になって、埼玉県でお酒造りをされている佐藤さんは、どのような方なのでしょうか?なぜ日本酒造りを始めたのでしょうか?

同じ埼玉県民として、女性として、疑問をたくさん抱えて佐藤麻里子さんのお話をお伺いするため、越生町にある佐藤酒造店に訪問しました。

ー毎日状況が変化していく酒造りには答えがなく、そこが楽しいー

ジェシカ:佐藤さん、こんにちは!
今日はよろしくお願いします。

佐藤さん:よろしくお願いします。

ジェシカ:早速ですが、杜氏ってどのようなお仕事ですか?

佐藤さん:お酒の製造責任者でもあり、蔵人(=酒造りに携わる職人)をまとめる役割をもっています。

ジェシカ:なるほど。お酒を造るだけで大変なイメージがあるのに、その責任者をされているなんてすごいですね…杜氏としてのお話を詳しくお伺いする前に、この記事を読んでくださる方に向けて、簡単にお酒ができるまでの工程を教えていただけますか?

佐藤さん:はい、わかりました。まず、原料となるお米を精米して、洗って、水を含ませて、蒸す。蒸したお米に麹菌を付けて、日本酒の元になる麹を作ります(=製麹(せいぎく))。その麹菌と水に必要な材料を加えて「酒母」というものを作り、そこに麹、蒸米、水を入れてゆっくりと発酵させます。発酵が終わったら、圧搾・濾過・加熱を行い、瓶詰めをします。
1本のお酒ができるまで1ヶ月半ほどかかります。ただ、できるまでの期間も外部の環境によって変化するので、夏場だと1ヶ月くらいでできたりします。

<出典:SAKETIMES

ジェシカ:とっても多くの工程があるんですね!そんなお酒造りをする中で大変なことを教えていただけますか。

佐藤さん:大変なことは健康管理です。お酒造りでは作業をする場所によって温度の差が大きくて…40℃にもなる麹室と、冬には最低気温-7℃にもなる外との出入りを1日通してずっと繰り返すので、体調を崩しやすくなります。だからこそ健康管理がとっても重要な職業ですね。
それから、お酒造りは毎日状況が変化するので、それを蔵人と共有して仕事をしていくのが難しいところです。でもその変化が楽しいところでもあります。

ジェシカ:楽しいと感じられることが素晴らしいです!

佐藤さん:ありがとうございます。毎日状況が変化していくお酒造りには、答えがなくて。でもそこが楽しいと感じます。
例えば、「製麹(せいぎく)」という作業では、細かい温度や湿度の管理がとても大切です。質のいい麹を作れるかどうかで、日本酒の出来上がりが変わってくるので。昼夜関係なく、毎日2~3時間おきに麹室に行って、毛布をかけてあげたり取ってあげたり。子守りをするみたいに気にかけています。

ジェシカ:とても繊細なお仕事なんですね…

ー蔵人の目と手、豊かな越生の水を使って作る美酒ー

ジェシカ:お酒造りをする上で、佐藤酒造店さんならではのこだわりはありますか?

佐藤さん:小さい酒造ならではの工夫ですが、昔ながらの方法で私たちの目と手を使ってお酒を造っています。佐藤酒造店では、他の酒蔵との差を出すためにも、できる限り機械を使わず手作業でお酒造りをしています。機械に頼った方が良い作業もありますが、手を抜けない部分は全て手作業で行っています。小さな変化を人の手で感じ取って、微調整をしています。

ジェシカ:ますます佐藤酒造店さんのお酒を飲んでみたくなります…(笑)
佐藤酒造店さんは越生町にありますが、越生町の酒蔵だからこそという点はありますか?

佐藤さん:軟水で綺麗なお水があるところですね。
お酒造りには水が欠かせません。お米や道具の洗い物から、日本酒に使う水まで、毎日2トンほどのお水を使うんです。実は、お酒の一升瓶も8割がお水なんですよ。あとの2割は麹などからできるお酒のエキスで。
越生町は越辺川(おっぺがわ)の上流にあるので、とても綺麗な水をお酒造りにふんだんに使うことができるんです。

ジェシカ:そうなんですか!来るときに越辺川を見たけれど、とても綺麗でした!夏だったら飛び込みたいくらい…(笑)

佐藤さん:私も小さい時から川遊びが大好きでした!川魚を釣りもしましたね。今でも夏にはホタルが見られますよ。越生町はとっても自然豊かで、鹿や猿も出るくらいです!(笑)

ジェシカ:素敵ですね!ちなみに、佐藤さんはオフの時間はどのような事していますか?

佐藤さん:5月~9月がお酒造りのオフシーズンなので、美味しいものを食べに行ったり、カメラを持ってドライブに行ったりしています。

ジェシカ:美味しいもの食べることが好きなんですね!越生のおすすめのお店ってありますか?

佐藤さん:越生はお水がとっても綺麗なので、お蕎麦やうどんが美味しくておすすめです。

ー大学卒業後すぐに決断した酒造りの道ー

ジェシカ:佐藤さんはいつから越生町でお酒造りのお仕事をされているんですか?

佐藤さん:大学を卒業してからすぐに佐藤酒造店に入社しました。

ジェシカ:大学卒業後すぐですか!?小さい頃からお酒造りをしたいと考えていたんですか?

佐藤さん:小さいときはお酒造りをしようとは思っていませんでした。私が小さい時は、酒蔵の入口には「女人禁制」と書いてあって酒蔵に入ることができなかったんです。お相撲さんの世界と同じで、お酒造りに女性が入ることが許されていなくて。だから、小さい頃は蔵人のみんなが作業しているのを目にしていたんですけど、お酒造りに携わったことはなかったです。

ジェシカ:酒蔵に入ることさえ許されなかったなんて驚きです…お酒造りのお仕事に興味を持つきっかけがあったんですか?

佐藤さん:高校生、大学生の頃に、酒蔵に隣接する直売店を手伝いながら、たまに蔵でのお仕事を手伝っていた時に「このお仕事、面白いな。」と思い始めたことがきっかけでした。そこからお酒造りをやりたいと思うようになりました。

ジェシカ:素敵だなぁ。

佐藤さん:当初、別の酒蔵に修行に出ることなども考えたのですが、佐藤酒造店の建物が老朽化していて、再建するかどうかの決断を迫られていた時期で。何度も家族会議を重ねた結果、蔵の再建を決め、私も佐藤酒造店で働き始めることに決めました。
2015年に、新しい設備が整った蔵でお酒造りを始めるにあたって、社長である父から、杜氏に指名されました。

ジェシカ:家族の皆さんで下した決断だったんですね。

ー日本酒をあまり飲んだことのない方にも手に取ってもらえるお酒をー

ジェシカ:佐藤さん、皆さんにおすすめしたいお酒はありますか?

佐藤さん:おすすめは、自分の名前がついている「まりこのさけ」がおすすめです!杜氏になった年から、毎年造っています。第1弾から始まって、今年は第5弾、6弾をお店に出しています。

ジェシカ:1年目から!すごい!おすすめのポイントはどんなところですか?

佐藤さん:日本酒をあまり飲んだ事がない方にも手に取っていただけるように、パッケージやラベルのデザインを自分で考えてこだわっているところです。味も、佐藤酒造店のお酒の特徴である淡麗・辛口系でありつつ、飲みやすいように少し甘味を出したものにしています。

ジェシカ:パッケージにも味にも手に取る方への思いが詰まってるんですね。でも、新しいことに挑戦するにあたって不安はなかったですか?

佐藤さん:ありました。昔から売っている佐藤酒造店のお酒「越生梅林」のパッケージをいきなりリニューアルすると、以前から買っていただいている方に認識していただけなくなるという心配もあって…社長である父に相談してみたら、「まずは、越生梅林とは別の新しい商品を造ってみたら」と言ってもらい、「まりこのさけ」を造り始めました。

ジェシカ:理解があるお父さんですね。佐藤さんが杜氏として、お仕事をしていく中でお父さんとの衝突はなかったですか?

佐藤さん:なかったです。今後一緒に弟と酒蔵をやっていくんだから、2人の思うようにやったらと任せてくれました。

ジェシカ:素晴らしい!

ー自分のやりたいことに思い切り挑戦するー

ジェシカ:今年、埼玉県は150年を迎えます。埼玉県についての想いを教えてください。

佐藤さん:まずは150周年おめでとうございます!
あまりの長い歴史にぴんとは来ていないのですが、改めて大切に毎日を生きたいと思うきっかけになります。
私は生まれも育ちもずっと埼玉で、今は埼玉県でお酒造りをしているので、これからも埼玉県でのお酒造りを通して、地元越生の良さをたくさんの方に伝えていきたいなと思っています。

ジェシカ:埼玉県はこれからどんな風になってほしいですか?

佐藤さん:豊かな自然も、便利な都会もある埼玉県が私はいいなと思うので、そんな自然と都会が共存する埼玉県が、若い世代の方にとって、もっともっと住みやすい県になっていければと思っています。

ジェシカ:ありがとうございます。そんな埼玉県にある佐藤酒造店さんは、これからどのようなお酒造りをしたいですか?

佐藤さん:女性ならではの視点で、お酒を飲む方、飲まない方、年齢、性別関係なく、様々な方に飲んでいただけるお酒を造りたいです。
以前、同世代の友人に話を聞いて、日本酒がくどい、苦い、悪酔いするという先入観を持っていることがわかって。そんな先入観を変えていきたいです。もちろん昔から佐藤酒造店のファンでいてくださっている方の思いにも応えられるように技術を磨きたいです。
これからも、佐藤酒造店では食中酒として楽しめるような後味が軽い、スッキリとしたお酒を造り続けていきたいなと思ってます。そして、そのお酒が飲む方々の喜怒哀楽の場面にそっと寄り添う優しいお酒であればと思っています。埼玉といえば「越生梅林」と思ってくれている人が一人でも増えれば嬉しいです!

ジェシカ:最後に、埼玉県で初めて女性の杜氏になった佐藤さんから、これから就職活動をなさる女性の方にメッセージをいただけませんか。

佐藤さん:私は酒蔵の女人禁制という決まりを気にせずにグイグイ挑戦してよかったと思っています。職業のイメージに囚われずに、自分がやってみたいお仕事に思いきり挑戦してみてください!

ジェシカ:佐藤さん、素敵なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

佐藤さん:ありがとうございました!

\ズバリ!埼玉県を色で例えると?/

虹色

サッカーチームのオレンジや赤があって、野球チームの青もあります。それから自然豊かな埼玉県の緑色も。何より日本全国、海外からも様々な方が埼玉県に引っ越してきて県ができているので、多彩だなということが理由です。だからなのか、お酒の好みも人により全然違うんです。なので1色ではなくて、虹色だと思います!

編集後記

ジェシカさん
今回、埼玉で初めて女性の杜氏になられた佐藤麻里子さんのお話を伺って、佐藤さんの情熱と埼玉への愛が本当に伝わってきました。特に、日本酒を通して地元の越生町を、埼玉県民だけではなく、日本国内のみなさんや海外に住んでいるみなさんにも届けたいというお話を聞いて、同じ県民としてとっても嬉しかったです。

実際、酒造の中で作業されているところも見せていただきました。日本酒造りに使う道具を持たせてもらって、造っている途中のお酒を混ぜてみましたが、とっても重たくて力がいるお仕事だと実感できました!
そして同じ女性として、「これまでのイメージに囚われず、お仕事に挑戦する」とのアドバイスがとても大事だと思いました。

佐藤さんの明るく前向きなお話がとっても楽しかったです!

編集後記

今回のロケ地

有限会社 佐藤酒造店

1844年創業の地酒メーカー。
越辺川の清冽(せいれつ)な伏流水を使用し、小さなタンクで手間ひまをかけて造られた地酒が自慢。代表的な商品「越生梅林」をはじめとする淡麗・辛口系の地酒を中心に、美酒を販売している。越生梅林が目と鼻の先にある立地を生かし、梅干しや梅ゼリーなど梅関連の商品も展開しており、年齢問わず訪れる人を楽しませる商品が揃う。

有限会社 佐藤酒造店

有限会社 佐藤酒造店